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経団連・中西宏明会長がおもしろ過ぎる! 計算された自由人の発言

 
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こんにちは、さんちゃんです。

 

昨年も新卒採用における就活ルールの廃止発言で経済界、政界、大学を巻き込んだ議論を促すきっかけをつくった中西宏明・日本経団連会長ですが、2019年も守りに入らず攻める発言を連発しています。

 

日立製作所会長であり経団連の会長ですから、極めて優れたバランス感覚を持ち合わせていることは当然なのですが、その尖った発言がおもしろ過ぎます。同時に、本質をついた発言をされています。

 

本日は、『日経ビジネス』2019年1月7日号の新春インタビューより、中西会長の発言を紹介します。

 

「仲良しクラブ」は終わった

インタビューのタイトルにもなっている言葉です。

こちらは、自身が会長を務める経団連に向けての発言です。

 

高度経済成長期は同じ業種の中で、同じような形態の会社が「共に」栄えることができました。「隣がやっているからウチも」という手法でも、確かに売り上げを増やすことができた。でも、そうした横並びの時代は終わりました。業界内のご相談でそれぞれの企業の強みを出すということも、もうできません。経団連をはじめ経済団体という存在も、決して仲良しクラブでは済まない。お互いに知恵を出し合って、切磋琢磨し、時代に即した戦略をつくる役割が重要になってきます。

出所)『日経ビジネス』2019年1月7日号

 

経団連は、産業界の重鎮の集まりといえば聞こえはいいですが、保守的な長老たちが集うイメージがあります。

そのなかで、これからは互いに仲良しこよしではやっていけませんよと発言しています。

 

昨年12月にはメルカリとアマゾンジャパンが経団連に加盟しましたが、ある意味で異質な存在を入れることで伝統企業とIT企業とのあいだに意図的に不協和音をおこしてそのうえでの切磋琢磨を期待しているのかもしれません。

 

そういえば、2012年には経団連を脱退した楽天・三木谷浩史会長が中心となり、インターネットを利用したコンテンツ産業の企業を集めて「新経済連盟」が発足したこともありました(設立は2010年。2012年に名称変更)。

当時の経団連は米倉弘昌会長時代ですが、もし中西会長であれば楽天が脱退することはなかったかもしれません。

 

原発を動かすと次の選挙で落ちる。

中西氏が会長をつとめる日立製作所は原子力発電所の建設事業を実施しています。

 

「超スマート社会」(ソサエティ5.0。下記参照)を標榜する中西会長にとっては、原発が好きか嫌いかの議論ではなく、エネルギー問題について真正面から議論をすべきだとしています。

 

…前略…再稼働の必要性を仮に自治体の長を説いても、原発を動かすと次の選挙で落ちる。こういう仕組みに入ってしまいました。このままだと中国とロシアだけが原発をつくる国になります。エネルギー問題を語り始めると、残念ながらソサエティ5.0のような明るい話にはなりません

…中略…

経済産業省の懇談会で僕は原発が好きか嫌いかという議論をやめるべきだと言ったんです。人類として本当にどうすべきか。ここを出発点にすべきだ、と。

出所)同上

 

日本国内の世論は原発再稼働反対の流れがあります。そこではある種タブー視された感情的な議論につながってしまうことが少なくありません。

こういうテーマでの発言は独り歩きすることも多く、原発再稼働についての肯定派からも否定派からも拒絶される危険があります。それでもなお、はっきりと議論を巻き起こそうという発言は勇気のいる発言だといえます。

ちなみに、正月1月1日の年頭会見でも原発政策についての公開討論を呼び掛けていますので中西会長の本気度が伝わってきます。

 

ソサエティ5.0…狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、新たな社会

出所)内閣府(https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/index.html)

 

賃上げの要請は、「しっかりもうけてください」

組合はもとより近年では政府からも賃上げを求める声があがっています。

それに対して、中西会長は、(政府に)指示されたから賃上げをするという発想はないと断言しています。

そのうえで次のように語っています。

 

もちろん日本全体で賃金が上がればいいし、個々の企業が強くなり、グローバル競争に勝つことが日本経済にとって重要なだという視点に全く異論はありません。賃上げの要請は、僕らからすれば、「しっかりもうけてください」と同じ意味だと思っています

出所)同上

 

こういう言葉の置き換えに知性を感じます。

労働者と使用者(企業)で利益を分配するという考え方に立つのではなく、利益を増やすことで結果的に賃金も上がるという考え方に立っています。賃上げというと、ある意味では労使の対立を煽ることにつながりかねませんが、絶妙な言い回しでゆるくかわしています。

原発については真正面から議論をすべきと語る中西会長ですが、賃金については労使協調路線で明言を避けています。そして、さらに、労働者に対しても「一生懸命さ」の中身を変えていく必要があると語ります。

 

「生活補給」という考え方から「やる気充填給」に変わらなければいけない

(インタビュアー)―――横並び賃金の時代でもない。

人と違ったことをちゃんとやっていかないと、競争力がつかない経済構造にどんどんなっていくと思うのです。つまり、イノベーティブでなければ生き残れません。働き手も「一生懸命さ」の中身を変えないといけないし、企業もそれにどう応えるかをもっと真剣に考えないといけない。処遇の在り方自体が「生活補給」という考え方から「やる気充填給」に変わらなければいけない。こうした構造転換をしなければならない時ですから、「他社がやっているからウチも」という発想では本来ないのです」

出所)同上

 

横並びには、社内(の同期、同年齢)と社外(業界の他社)の2種類があります。

中西会長は、おそらくいずれの横並びに対しても、そこからの構造転換の必要性を語っていると解釈できます。

 

一生懸命さの中身については語られていないので推測の域を出ませんが、「イノベーティブであれ」と同義であれば労働時間による賃金支払いをやんわりと否定していると捉えることができます。働き方改革で注目されている高度プロフェッショナル制度のように、賃金を時間ではなく成果により連動させる制度設計を考えているのではないでしょうか。

同時に、生活と賃金の切り離しにも言及していますので、非常に大きな賃金制度改革となりうる発言といえます。

 

働き方改革における「労働時間」ほど注目されていないかもしれませんが、「賃金」についても今後議論が活発になってくるかもしれません。

 

「プリンシプル」を持たないとダメだと思う

(インタビュアー)―――「ポスト平成」に向けては、日本企業はどのように変わらなければいけないとお考えですか

どういうポジションで何を飯のタネとして、やっていくのか。まず、この戦略を考えなければいけない。企業が自分の主張を持ち、個性を持ち、イノベーションをする。その結果として世界に貢献しているのだから私たちは正しいのだという「プリンシプル」を持たないとダメだと思う。イノベーションは人と同じことをしていては生まれません

出所)同上

 

プリンシプル(principle)とは、直訳すると「原理」「原則」を意味します。

 

インタビューでは変わらなければいけないことを前提に問われていますが、中西会長の回答は「プリンシプルを持つこと」となっています。

解釈は極めて困難ですが、変わりゆく時代や経済について、核となる部分、すなわち「自分の主張を持ち、個性を持ち、イノベーションをする。」ことの大切さを語っていると解釈できます。

ここでイノベーションとは変革というより成長に近いイメージかもしれません。

 

つまり、自分の意見を持ち、その意見を恐れずに発言し、成長するという原理・原則を忘れてはならない、という意味に捉えることができます。

 

外交官であり吉田茂元首相の懐刀でもあった白洲次郎が『プリンシプルのない日本』という本を出しています。そこでは一般的な日本人にはない信念や意志を通すことの大切さについて語られています。

中西会長の発言は、白洲次郎へのアンサーソング的な意味合いがあるのかもしれません。

 

いずれにしても、変化することの大切さと変化しないことの大切さの両方を語っている中西宏明・経団連会長の発言には今後ますます注目を集めそうです。

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