【感想】『「キングダム」で学ぶ乱世のリーダーシップ』長尾一洋(2016)集英社.
こんにちは、さんちゃんです。
ずっと前から読みたかった『「キングダム」で学ぶ乱世のリーダーシップ』を読みました。
そこで、自分自身への備忘録を兼ねて感想を書いていきます。
ちなみに感想の本文は「である」調になっています(なんとなくそうなりました)。
「キングダム」で学ぶ乱世のリーダーシップ
本書は、原泰久氏の大ヒット漫画『キングダム』からリーダーシップを学ぼうというものである。
著者の長尾一洋氏は「孫子の兵法」を現代の経営に活用できるように独自にアレンジして経営コンサルタントとして活躍する人物である。
なぜ、「キングダム」でリーダーシップを学ぶのか
著者によると、その気になれば誰でもリーダーシップを発揮することができると説く。そして、そのチャンスは平時よりも乱世でこそたくさん訪れるという。
現代のビジネスを取り巻く環境は、国内マーケットが縮小し業界内での過当競争、合従連衡がおこっており、まさに乱世と呼ぶに相応しい社会となっている。
「乱世だからこそ出番があるし、そのチャンスを活かせる。あとは自分次第です」(28頁)
古代中国、春秋戦国時代に覇権を争い秦の始皇帝が誕生するまさにその物語をダイナミックに描く『キングダム』登場人物のリーダーシップを考察し、10個の「リーダーの条件」を抽出した良書といえる。
現代を生きるビジネス・パーソンであれば、漫画『キングダム』を読んだことがある人はもちろん、読んだことがない人でもその世界観に惹き込まれあわせて漫画も読みたくなるのではないだろうか。
リーダーの条件①人を巻き込み同志とできるか
本書では、リーダーを「二人以上の集団(組織)をある目的地(目標)に向けてリード(導く)する人」(30頁)と定義している。
リーダーの第一条件は「人を巻き込み同志とできるか」である。著者は「エンロール力」と呼ぶ。
「利害」や「損得勘定」を越えた信頼関係を形成していること、リーダー自身が本気であることを示し、熱量の高さで共感を呼び込めるかが大切とする。
リーダーの条件②率先して範を示せるか
いざというときに率先して先頭に立って奮い立たせることが大切である。
第二の条件は「率先垂範力」である。
リーダー自身が頑張っている姿を示してこそ、フォロワーも自分たちがやるしかないと奮起し始める。
リーダーの条件③先を見通し細部まで気を配れるか
第三の条件は「細心配慮力」である。
無謀に見えても細部まで気を配る繊細さが必要であり、小事をおろそかにすると大事は為せないと説く。自分たちと相手、現状と将来の全体像を把握して判断することが大切である。
リーダーの条件④合理的に考え特に非情になれるか
第四の条件は「非情合理力」である。
リーダーの決断は、ときに非情であり、フォロワーからは冷たい、きついと思われることもしばしばである。だからといってフォロワーに迎合した判断をしていては組織が弱体化するばかりである。
常に目的と照らし合わせて、不可能だと判断すれば撤退、中止を命令しなければならない。
合理的判断に基づく非情ともいえる決断を下してこそリーダーのリーダーたるゆえんである。
リーダーの条件⑤部下愛を持って人を育てられるか
同時に、部下愛を持って人を育てられるかという「部下愛育成力」が第五の条件となる。
筆者自身、第四の条件である「非情合理力」と裏腹の力と指摘しているが、その両者の矛盾した力を絶妙なバランスで両立させることがリーダーには求められる。
「部下の成長を期待しつつ、場を与え、共有し、時に問いかけをしつつ、部下を啓発」(98頁)
リーダーの条件⑥前向きさ明るさを持っているか
第六の条件は「明朗快濶力」である。
著者によると、濶(かつ)の字は、単に明るく元気にとどまらず心を広く前向きに持つという意味を込めて快活ではなく快濶としていうようである。
ピンチのときこそ前を向き、そのリーダーの言動や行動でその場の空気、雰囲気を前向きなものへと変換することが大切で、そうすることで事態が好転することが少なくない。
深刻であればあるほど、フォロワーが落ち込んでいればいるほど明朗快濶力は活きてくる。
リーダーの条件⑦すべてを背負う覚悟はあるか
第七の条件は、リーダーとしてすべてを背負う覚悟があるか、「リスクテイク力」である。
責任と権限は表裏一体であり、責任を負ってこそ権限が与えられる。また必要があれば冒険するリスクも大切となる。そこから得られる利益が大きいからである。
同時に蛮勇では困る。そのため、勇気と蛮勇との分けるあたりの判断力を含めたリスクテイクが求められる。
リーダーの条件⑧人間を理解しているか
第八の条件は「人間理解力」である。
リーダーが率いるのは生身の人間である。感情がある。人間だから、愛憎、怨念、嫉妬、金への執着など醜い部分が当然にある。そのことを理解したうえで、「人間を信じないこと」と「人間を信じること」とを併せ持つことが大切となる。
「不信による疑いではなく、信じるための疑い。汚く醜い部分も持ち合わせているが、綺麗で純粋な部分も持っているのが人間。人間の理解にゴールはありません」(140頁)
リーダーの条件⑨熱いビジョンを作り示せるか
第九の条件、それは「ビジョン構想力」である。
リーダーはビジョンを示す必要がある。
「中華統一」というこの単純明快なメッセージに登場人物は皆、心を動かされる。
そして、ビジョンを達成するための道すじ(ストーリー)を熱く語ることこそが、人を動かす鍵となっている。
「リーダーには、ビジョンを作り、それをフォロワーに示して、実現可能性を信じてもらい、そこに「真・善・美」の価値を感じてもらう力が必要」(156頁)
リーダーの条件⑩自らを捧げる使命感はあるか
自らの使命感に基づきビジョンを作る、その「使命挺身力」こそが第十の条件となる。
「その立場に置かれ、やるしかないと覚悟を決め、それが自分の人生なのだと使命感を確立することで、誰しもリーダーになれるのです。」(162頁)
「人間、その気になって、やるしかないと覚悟を決めたら、おのずとリーダーシップを発揮できるようになるものです。」(171頁)
感想~「リーダーの10条件」と発揮するための準備~
本書は、漫画『キングダム』の登場人物のセリフ、戦いの一コマなどから、リーダーとしての条件を抽出したものである。
リーダーの10条件をあらためてまとめると、次のようになる。
①エンロール力(協力者を巻き込み仲間にする力)
②率先垂範力
③細心配慮力
④非情合理力
⑤部下愛育成力
⑥明朗快濶力
⑦リスクテイク力
⑧人間理解力
⑨ビジョン構想力
⑩使命挺身力
なお、本書には『キングダム』の登場人物が挿絵を含めてふんだんに登場する。
しかし、この感想では「あえて」漫画にでてくるキャラクターや、そのセリフ、戦いのシーンについていっさい表現していない。
私自身が一つひとつのセリフやシーンに思い入れがあるため、ついつい熱くなってしまうという理由もあるが、今回は「キングダム」自体の感想や紹介というわけではなく、そこから抽出されたリーダーシップの諸要因について感想を述べることを優先した。
良い点~「こんな自分でもリーダーになれる」と勇気づけられる~
本書の良い点は、リーダーの条件を10個に整理したうえで、そのリーダーシップを発揮する登場人物に「国王から一兵卒まで」まんべんなく抽出しているところにある。
そのため、必ずしも自分が経営者や上司の立場ではなくても、自分自身の気持ちの持ちよう次第でリーダーになれると勇気づけられる。
著者自身が、誰でもリーダーシップを発揮することができると説いており、繰り返しでてくる用語に「覚悟を決める」「自分次第」というものがある。
本書を読むと、下僕の出自を卑下するわけでもなくリーダーシップを発揮する主人公をみながら、自分自身ももっと頑張らないといけないという気持ちにさせてくれる。
残念な点~トップ・ミドル・現場のリーダーシップが混在~
一方で残念な点がないわけではない。
リーダーの10条件は、筆者のオリジナリティーあふれる「●●力」で整理されていて非常にわかりやすいのだが、10個とやや数が多く、その項目に優先順位が設定されていないため、総花的な紹介にとどまっている。
せっかく10個に整理されているので、さらに一歩踏み込んで10の力を、それぞれ内的要素(本人の気持ち)と外的要素(フォロワーとの関わり)とに分類してみたり、あるいは、トップリーダー(経営者、起業家など)、ミドルリーダー(部長、課長など)、現場リーダー(主任、さらにはアルバイトリーダーなど)、など求められる役割に対応して、そこでより重要となる項目を図解して整理するなどあってもよかったのではないか。
とはいえ、筆者の熱い『キングダム』愛が伝わる一冊であり、夢中で読み進めることができました。