【感想】『キングダム 最強のチームと自分をつくる』伊藤羊一(2017)かんき出版.
こんにちは、さんちゃんです。
読書感想文、第2弾です。
今回は、伊藤羊一(2017)『キングダム 最強のチームと自分をつくる』をとりあげます。
キングダム最強のチームと自分をつくる POWER WORDS OF KINGDOM/伊藤羊一【1000円以上送料無料】
先日のブログで紹介した『「キングダム」で学ぶ乱世のリーダーシップ』とは少しテイストが異なっています。
というのも著者は、大学卒業後、金融、文具事務用品・家具、インターネットと異なる業界で、営業、物流、マーケティング、新規事業開発、経営などの職種を経験したのち、現在は「Yahoo!アカデミア」(ヤフー企業内大学)の学長でありグロービスグロービス経営大学院の客員教授として活躍しているいわば教育者です。
特に読んでほしい読者層に「若手・中堅クラスの悩めるビジネスパーソン」をあげていますので、より教育・人材育成の視点から書かれており非常に読みやすい内容、構成となっています。
そういう意味では、『「キングダム」で学ぶ乱世のリーダーシップ』は、経営者・起業家など中堅~上級管理職クラス向け、本書は若手~中堅クラス向けといったイメージです。
とはいえ、いずれも興味深い内容が書かれていますし、重なり合う部分もありますので補完的に両方の本を読むことでより理解が深まるのではと感じました。
【先日のブログ】
【感想】『「キングダム」で学ぶ乱世のリーダーシップ』長尾一洋(2016)集英社.
キングダム 最強のチームと自分をつくる
まえがきに、
「本書は、超人気マンガ『キングダム』に登場する人物たちの「言葉」をベースに、ビジネスパーソンに必要な「仕事力」の鍛え方を述べたものだ。」(3頁)
とあります。
私も常々感じていることですが、言葉の力は絶大です。
ことわざや慣用句とともに、「偉人の言葉」は時を越えて私たちを奮い立たせるものがあります。
本書は著者の約30年間におよぶビジネスパーソンとしてのキャリアにおける「成功体験」、「失敗体験」、「人との出会い」などから得られた経験や学びを、キングダムの登場人物の言葉とともに書き出しているのが特徴です。
そのため、本書の流れは、著者が仕事をするうえで大事にしている思いを次の6つのカテゴリーに分類したうえで、その思いをより魅力的に伝えるためにキングダム登場人物の言葉を活用しているイメージです。
仕事をするうえで大事にしている思い
志・・・ビジョン
行動・・・アクション
精神力・・・マインド
仲間・・・チーム
話力・・・スピーチ
信・・・ビリーフ
6つのカテゴリーがそれぞれ1章分を構成しており、1章のなかにキングダム登場人物の言葉が6~8個紹介されており、全部で41個の言葉からなります。
また、登場人物の言葉に先立って著者からの問題設定(01~41まで明記)、それぞれの言葉に対応するかたちで「著者のメッセージ」が紹介されています。
そのため、全41項目について、「問題設定」、「登場人物の言葉」、解説とまとめの「メッセージ」という流れになっており非常に読みやすいものとなっています。
以下では、各章で特に興味深く読ませていただいた項目をまとめていきます。
志・・・ビジョン
01「志はどのように育まれるのか」
言葉「おれは秦に帰り王になる」(発言者:政、発言のある単行本:8巻「決別」、以下同じ)
著者のメッセージ「志は天から降ってくるものではなく、踏み出し、行動することで生まれ、育まれる。」
きっかけは他者からの誘いや願いということもありますが、最終的には自分自身で意志を持って行動することで育まれるとしています。
また、高い目標、倫理観のもと、一人またひとりと志に共感してくれる人があらわれることなどもエピソードを交えながら紹介しています。
行動・・・アクション
08「ビジョンが明確であれば、チャンスに気づきやすくなる」
言葉「まさかこれほどの大任をお受けできるとは夢にも思いませんでした!友と二人身の程をわきまえぬ大望があります もとより全てを懸ける覚悟です」(漂、1巻「漂の決意」)
著者のメッセージ「自分の身におりてきたことを嫌がるか、チャンスととらえるか。すべては志次第。」
漂は、信とともに下僕として暮らす少年でした。
秦王の政に姿が似ているという理由で「影武者」役を仰せつかります。
命の危険もある大役ですが、信と二人で天下の大将軍になるという大望があるからこそ即答します。
残念ながら漂は志半ばで命を落としますが、その志は信に受け継がれることになります(連載初期の名シーンです)。
ある機会に遭遇した際に、「チャンス」ととらえるか「リスク」ととらえるかは重要な分岐点になります。
著者はその判断基準として「自分のビジョンに照らし合わせ、そこに近づくかどうかだ。近づくのであれば、チャンスと考え、踏み出すべきだ。」(50頁)と指摘しています。
志(ビジョン)と行動(アクション)の相互作用が成長へのかじ取りをすることになります。
あわせて、目の前のやるべきことに集中すること、ピンチの際には成功に向けた一手をイメージすることの重要性が指摘されています。
精神力・・・マインド
15「マインドは一瞬で変わる」
言葉「腕前ではない 今の儂の武器は心じゃ」(蒙驁、22巻「熱きもの」)
著者のメッセージ「マインドを鍛えよう 気づけば一瞬で変われる」
極めて凡庸な将軍・蒙驁(もうごう)は、敵の総大将・廉頗(れんぱ)に若いころから負けた経験しかなく今回も負けると決めつけています。
しかし、信に「この期に及んでじーさんに一発逆転の好機が生まれたって話だろ!」と言われたことで気持ちを切り替えます。
秦の言葉が蒙驁に気づくきっかけを与え、廉頗との大将同士の一騎打ちへとつながります。
著者は、思い(マインド)と腕前(スキル)の両方が大切としており、成果を出す人の共通項を次のように整理しています。
①きっかけがあり、
②そのきっかけから自分のマインドのありように気づき、
③行動に移し、
④ふり返り、気づきを得て、
⑤また行動する
というサイクルを回すことです。
仲間・・・チーム
20「リーダーが全面に立つことで、局面が打開できる」
言葉「俺が先頭を行くから皆が走れるんだろうが!! 行くぞ飛信隊!!」(信、20巻「玄峰、翻弄」)
著者のメッセージ「あなたは現場の最前線に立っているか?」
「アメリカの士官学校には、「平時はAfter You,有事はFollow Me」という言葉がある」(105頁)
平常時はチームの自主性に任せる。ここぞというときには勇気をもって先頭にたつことがリーダーの仕事といえます。
話力・・・スピーチ
28「人に伝えるときは、スッキリ、カンタンに」
言葉「全軍 前進」(王騎、11巻「龐煖」)
著者のメッセージ「スッキリ、カンタンな言葉で、聞き手を迷子にさせないようにしよう。」
戦いが近づくなかで、味方の士気が下がり脱走兵がでていたときの六大将軍・王騎の言葉です。
たったふたつのワードで、味方の士気を奮い立たせます。
小難しい話をせずに、単純な言葉でストレートに伝えることが大切となります。
(わかっていてもなかなか難しいところではありますが…)
また、具体的なイメージを持ってもらえるように感情に語り掛けることや、キーワード化することで覚えてもらいやすくする、自信を持って語り掛ける、そのために徹底的に準備をするなど「話力・・・スピーチ」の項目はすぐにでも活用できる内容ばかりです。
信・・・ビリーフ
36「感謝や期待を、恥ずかしがらずに「言葉で」伝える」
言葉「お前は同じ伍で魏戦を戦った仲間としてとっくに俺の百人隊の頭数に入ってんだからな!!だから次の戦までに絶対戻って来いよ」(信、10巻「夜語り」)
著者のメッセージ「メンバーを信頼しているなら、思いをちゃんと伝えよう。」
著者はまず、朝「挨拶」をしっかりとしたか、と問いかけます。
コミュニケーションの基本であり、挨拶の次は「感謝」ありがとうを伝えたか、そして「期待」を伝えているか。
思いを言葉にして伝えることで、「ちょっとした改善で、職場の雰囲気が劇的に変わることを実感する。」(172頁)と指摘しています。
私もそうですが、言葉ではっきり伝えるというのはなかなか苦手な人が多いように思います。
著者がこの項目を「話力・・・スピーチ」ではなく「信・・・ビリーフ」で記述しているところに、単純なテクニックではなく、信念が大切であるというメッセージが伝わってきます。
言葉にすること自体は小さなテクニックかもしれませんが、そこに気持ちを込めることで伝わり方が大きく異なるのだと思います。
今すぐにでもさっそく実践したい項目のひとつです。
感想~今すぐできることを実践していく~
最初に書いたように、本書は、若手~中堅クラスのビジネスパーソンを主な読者層として書かれています。
そのため、多くは今すぐに実行できる項目となっています。
6つのカテゴリーをみても、「志」「行動」「精神力」「話力」「信」の5つ、つまり「仲間」以外のカテゴリーについては、一人ひとりが自分自身をふり返りながら実行することができます。
また、感謝や期待の気持ちを言葉でしっかり伝えるなどは、中堅~上級管理職クラス、経営者・起業家にとっても「ハッと」させられたのではないでしょうか。
日々の当たり前の職場環境に慣れてしまっていないでしょうか。
ほんの少しの気づきときっかけ、そして行動が、職場環境を劇的に変化させることにつながるかもしれません。
まずは挨拶から、いつもの1.1倍の声の大きさと笑顔で語り掛けてみてはいかがでしょうか。
良い点~どうすればいいのかヒントが明確に提示されている~
本書は、問題設定、登場人物の言葉、に対応するかたちで41項目すべてに著者のまとめの「メッセージ」が記述されています。
その文章は「~しよう。」「~描こう。」「~いこう。」という感じで、読者に行動を促すスタイルになっています。
よし、じゃあ少しやってみようか。試してみようか。という気持ちにさせてくれるところが最も良い点だと感じます。
そしてそのために必要なヒントはすべて解説のなかに盛り込まれています。
41項目すべてを実行するのは難しいかもしれませんが、心に響いた項目から実行していくことで成長につながっていくのではないでしょうか。
残念な点~解釈が困難な項目が含まれている~
ほとんどすべての項目に共感できたのですが、いくつかの項目については解釈が困難でした。
私の理解力が乏しいことと、より成長の可能性がある若手~中堅ビジネスパーソンを対象としていることが理由と考えられますが、ややリスクに前向き過ぎる、ポジティブ志向に過ぎるのではないかと感じました。
また、個人の成長やリーダーシップの発揮に力点が置かれているため、「戦略」「戦術」「交渉」のようなカテゴリーがありませんでした。
想定している読者層とテーマ設定からやや離れてしまうのかもしれませんが、集団や組織のダイナミクスに関するカテゴリーがあってもよかったのではないかと感じました。
そういう意味では、『キングダム』をビジネスの視点から考察する場合、リーダーシップやチームワークの領域だけではなく、戦略やキャリアの領域からも書き下ろすことができそうです。