吉村総理待望論の短絡的思考のメカニズムを考える!
こんにちは、さんちゃんです。
新型コロナウイルスによる肺炎の影響で世界中がパニックになってから数か月、日本では少しずつ日常が取り戻されつつあります。
ここにきて国会議員や都道府県知事など政治家を対象に通信簿をつけようという動きがでてきました。
(私自身は正直なところまだ早いという気持ちがありますが、ある程度感染被害の底が見えてきたという意味ではよい兆候でしょう)
大阪府の吉村知事が大人気!!
連日のようにメディアに登場し、大阪府独自の緊急事態宣言解除の指針として「大阪モデル」で発表するなどその人気はうなぎのぼりです。
大阪府の吉村洋文知事に評価が集中したのには率直に驚いた。もう少し東京都の小池百合子知事と拮抗(きっこう)するのではないかと予想していたからだ。安倍晋三首相の評価が低いのは理解できる。想像以上だったのは、野党にも向けられた政治不信の根深さだ。
毎日新聞と社会調査研究センターは5月6日、携帯電話のショートメール機能を使った2回目の全国世論調査を実施した。コンピューターが無作為に数字を組み合わせた番号に電話をかけるRDS法により、まず自動音声応答(オートコール)で調査への協力を求め、承諾した人にショートメールで回答画面へのリンク情報を送る。回答者はウェブの画面で質問に答える方式なので、こちらが用意した選択肢から回答を選んでもらう設問だけでなく、自由に書き込んでもらう設問も可能なのが大きな特徴だ。
今回、「新型コロナウイルス問題への対応で、あなたが最も評価している政治家の名前を1人挙げてください」と問いかけたところ、携帯調査の回答者575人中401人が具体的な政治家を1人挙げてくれた。そのうちの半数近くに及ぶ188人が吉村知事の名前を挙げたのである。回答者575人を分母にすれば33%。3人に1人の計算になる。
出所)「大阪府知事人気に表れた政治不信の根深さ」毎日新聞2020年5月17日配信
調査の時期や方法、回答者の数などを考えると吉村知事の評価が高いことに驚きはない。
ちなみにベスト10はつぎのとおりでした。
今回の調査でトップ10に入った政治家は以下の通り。率は小数点以下を四捨五入。
①吉村洋文大阪府知事(回答者数188人、33%)
②小池百合子東京都知事(59人、10%)
③安倍晋三首相(34人、6%)
④鈴木直道北海道知事(26人、5%)
⑤山口那津男公明党代表(10人、2%)
⑥小池晃共産党書記局長(7人、1%)
⑦河野太郎防衛相(6人、1%)
⑧志位和夫共産党委員長(5人、1%)
⑧橋下徹元大阪府知事(5人、1%)
⑩高島宗一郎福岡市長(4人、1%)
出所)同上
吉村総理待望論まででてくる事態に!
読売テレビの「そこまで言って委員会」(日曜後1・30)に出演し、将来は国政復帰のうえ総理大臣を目指すのかといった質問を受けています。吉村知事自身は明確に否定していましたが、このような待望論がメディアやインターネットを中心に盛り上がっているようです。
また、プレジデントオンラインの記事(「安倍晋三に絶望…自然発生的「吉村総理」待望論、強まる」)では安倍総理の対応や野党議員の対応を批判的に、小池東京都知事や吉村知事の対応を肯定的に評価する声を紹介するとともに、吉村総理待望論を紹介しています。
吉村総理待望論のメカニズムに迫る!!
プレジデントオンラインの記事では、政治家同士の権力闘争や失政の擦り付け合いといった「内輪の論理」が分析の中心でした。
もちろんそういった要因も考えられますが、このブログではより大きな視野から「リーダーが人気が出るメカニズム」の本質を紹介します。
そのメカニズムは単純明快です。
それは、
危機的状況に立ち向かいⅤ字回復を実現させるリーダーシップに人々は熱狂する!
というものです。
海外のリーダーのなかだと、ニューヨーク州のクオモ知事や韓国の文大統領のリーダーシップに人気が集まっていることと同じメカニズムといえます。
ニューヨーク州は一時、毎日のように数百人が死亡する壊滅的状況にあり、そのなかで力強い発言を繰り返すクオモ州知事の人気が沸騰しました。
将来の大統領候補にといった声もきかれたようで、そのあたりも吉村総理待望論と全く一緒です。
韓国もとある宗教団体の集団感染といった不安や恐怖で国民がパニックになるなか、検査を徹底しておこない感染者数の把握に努めたことで感染者が減少するにしたがい文大統領の人気、支持率が高まってきました。
そして韓国のコロナウイルス対策を「K防疫」として世界にむけて発信しているところも、ある意味では「大阪モデル」を発表して人気を博している吉村知事のケースとこちらも同じメカニズムといえます。
なお、K防疫は韓国の土台があって初めて機能する防疫基準ですので、日本を含め他の国で真似をして上手くいくかは未知数です。
大阪モデルがやはり大阪の現状から導き出された指針でありたの都道府県でそのまま援用できないのと同じです。
それでも、危機に立ち向かい積極的に施策を打ち出すリーダーを頼もしく思い熱狂するメカニズムは万国共通だと思われます。
熱狂すること自体は悪いことではありませんが、そのメカニズムを知らずに絶対的に英雄視してしまうことは短絡的な思考と言わざるを得ません。
「感染者数ゼロ」の岩手県知事は人気なし・・・
一方で、危機的状況に陥っていない都道府県が日本に唯一存在します。
岩手県です。
岩手県は2020年5月16日現在、感染者数ゼロを維持しています。
当然ながら死亡者数もゼロです。
奇跡的な成果といっても過言ではありません。
そういう意味では、岩手県の達増 拓也(たっそ たくや)知事は最も評価をされてしかるべきですが残念ながらランキングには入っていません。
本来であれば、感染者数ゼロを維持している岩手県の達増知事のリーダーシップ、岩手県庁職員の働きぶり、岩手県民の意識や行動に注目が集まってもいいはずです。
もしかするとそこに感染防止の重大なヒントが隠されているかもしれないわけです。
岩手県および岩手県知事が注目されない理由も単純明快です。
そもそも危機的状況にないため、そこに立ち向かうリーダーシップを発揮しづらい
つまり、極めて地味で見えにくくアピールしづらいということから人気の沸騰に繋がらないわけです。
ここに人気が出る・出ないのメカニズムの答えが隠されています。
大切なことは、吉村知事と達増知事のどちらが素晴らしいかを議論することではなく、そもそも感染者数ゼロの岩手県では「岩手モデル」などとアピールする必要性すらもない状況にあるということを理解しておくことです。
吉村知事のリーダーシップが大阪府において支持を得られ、機能していることに疑いの余地はありませんが、熱狂するメカニズムを考慮せずに総理待望論などがでてくるのはやや短絡的で危険な思考と言わなければいけないでしょう。
同時に、(表現に少し難がありますが)感染者数がゼロの岩手県、ひとけた台で抑えている県の対応はどうしても地味なものとして評価されにくいものがあります。
そのあたりもしっかりと理解したうえでリーダーの動向を見守る必要があります。
ちなみに、人気沸騰の大阪府吉村知事と人気が出ない(出るメカニズムにない)岩手県達増知事の対比は、世界のなかで壊滅的状況に陥ってしまった欧米の大統領や首相の強いリーダーシップ、派手なパフォーマンスと弱弱しいリーダーシップにみえる日本の安倍総理の対比と似ているところがあるのかもしれません。
コロナウイルス対策におけるリーダーの通信簿というある意味では少々下衆に思えるアンケート調査結果から、われわれは冷静な判断が求められている格好のケースといえるのではないでしょうか。